日々の仕事Blog

『般若、井戸を掘る』(4月24日発売)のプロローグを全文公開します

カテゴリー:

  • 日々の仕事

 4月24日、『般若、井戸を掘る』が発売日を迎えます。去年の6月頃、カンボジアから帰ってきた般若さんと会って、色々な話をしたのですが、現地で彼が取っていたメモの中に「HIPHOPの核の部分は助け合いだと思ってる」とあるのを目にして、驚いたという感動したというか、とにかく心を動かされました。

2018年に『何者でもない』という彼の自伝を編集したのですが、彼の半生は戦いの歴史だと感じていた僕は、各章を「vs生い立ち」「vs金」「vs孤独」など、「vs」の形にする提案をしました。ただ、最終章は「with」としたのです。あれから数年経ち、「vs」の日々を駆け抜けた般若さんがいつしか本当に「with」の境地に至っていたことに対して、「あの般若さんが……」という思いが湧いた一方で、どこか納得している自分もいました。般若さんはいつだって熱かったけど、同時にいつだって優しくもあったからです。

『般若、井戸を掘る』は、2019年に「武道館ワンマン」を終えた後の般若さんが何を考え、どう行動してきたかをまとめた一冊です。そのプロローグを全文公開します。よければご一読ください。

こちらから、般若さん直筆サイン入りの『般若、井戸を掘る』を購入することができます。気になる方はぜひ。

 

プロローグ

 2024年8月14日夜、スマホに友人や知人からたくさんのメッセージが届いた。Yahoo!のトップページに、俺の記事が掲載されたのがその理由らしかった。

 その日の午後、俺は代々木競技場の第一体育館のステージに立っていた。MCバトルイベント『BATTLE SUMMIT Ⅱ』に出場したからだ。

 2019年にバトルを引退して5年。俺は何かに突き動かされるように、再び闘いの場に戻った。自分のためじゃなく、誰かのためのバトル。その「誰か」というのは、決して特定の人物ではなかった。でも、明確に意識していた。ラッパーである自分の存在意義、バトルという競技の意味、言葉にできないいくつもの想いを抱えて、俺は一人ひとりの対戦相手と真剣に向き合った。

 決勝の相手は、Benjazzy。その年の2月に解散したBAD HOP のメンバーの一人だ。俺は勝った。試合を終え、司会のUZIからマイクを渡された俺は、12000人の観客を前にして、ウイニングラップの中で大声でこう言った。

 賞金は、支援を必要とする子どもたちに寄付する。

 そもそも、その目的のために出場したイベントだった。でも、本当に優勝できるなんて思ってなかった。バトルはそんなに甘くない。実力のある若手ラッパーもどんどん出てきていた。この大会の賞金は2000万円で、それはさまざまな願望を叶えるだけの、大きな額でもある。俺に近い人たちの多くも、「寄付なんてしなくて良いいんじゃない?」と言った。「どうせ、実際には寄付しないんでしょ」と冗談半分で言ってきた人もいた。

 でも、俺は最初から寄付すると決めていた。

 この行為でHIPHOPシーンが変わるなんて思っていない。この先、MCバトルに出場するラッパーに、賞金を社会に還元して欲しくてやるんでもない。

 ただ俺は、大勢の観客の前で寄付宣言をしたことで、改めて気付かされた。

 HIPHOPの核にあるもの、根にあるもの。それは、助け合いだ。

 そして俺は、翌年の5月、はるか遠いカンボジアの赤い土の上に立つことになる。


(続きは4月24日に発売される『般若、井戸を掘る』でお楽しみください。