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『六月の満月』(一雫ライオン)ができるまで⑫
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『六月の満月』の第3稿をいただいたのが2025年8月上旬。初稿の問題点は、登場人物たちの性格や言葉遣いを修正したことで明確に改善。むしろメリハリが効いて、素晴らしくなりました。そして、第3稿でライオンさんは物語に疾走感を出す修正を施しました。その段階ではまだ矛盾の全てが解消できたわけではなく、ライオンさんはそこに手を入れながら、物語にさらなる面白さを加えていく改稿をしてくれました。
こういう時のライオンさんは良い意味でしつこくて、僕が「いいと思いますよ」と生返事をするくらいだと納得してくれず、「面白いです!」とか「いいですねえ!」とか言わせたいと思っている節があります。「こういうのはどうですか?」「ここで章吾にこう言わせるのはどうですか?」と、実にたくさんの味付けをしてくれました。
細かいやり取りを重ねて、10月下旬。第6稿か第7稿になるでしょうか。ついにこの日が来ました。
「ライオンさん、本当にお疲れさまでした。この原稿をゲラにしましょう」

編集者は作家と原稿のやり取りをするのも大切な仕事ですが、その原稿を書籍に仕上げるという大きな仕事もあります。最初に原稿をいただいた4月から完成に至った10月までの半年間、と言いたいところですが、気持ち的には『二人の嘘』のあとにライオンさんにがんが見つかって闘病なさっていた2022年から2025年10月までが「『六月の満月』の原稿をやり取りした日々」という感じがしています。
なので、「ゲラにしましょう」とライオンさんに言った時は、何とも言えない気持ちになりました。その間に僕は流星舎を立ち上げ、「流星舎の刊行作品第一弾はライオンさんの小説にしたい」と言って、あれこれありながらも作り上げた『六月の満月』。当たり前ですが、僕にとっても思い入れの深い作品です。その作品をついに入稿するというのは、実に感慨深いことでした。もちろん、やることは山積み。
・何文字×何行で1ページをレイアウトするか=何ページの本に仕上げるか
・ハードカバーとソフトカバーのどちらにするか
・本文の書体をどうするか
・本文のデザインをどうするか
・装丁をどうするか
ざっと思いつくだけでもこのあたりのことを考えなきゃいけないのですが、流星舎として初めての書籍なので、
・印刷所をどうするか
・校正はどうするか
ということも決めなくてはいけません。そして、流星舎は僕ひとりなので、
・書店への営業をどうするか
も大きな課題でした。僕は編集者でありつつ、営業でもあり、そして経理担当でもあります。ぼんやり恐怖に震えていると底なし沼に落ちるので、やるべきことを紙に書いて、一つずつやっていくことにしました。書いて可視化することで恐怖の正体をはっきりさせるいいますか。「自分はこれをやらなきゃいけない」と頭に叩き込むといいますか。
「やるべきこと」の中で一番心を砕いたのは、やはりデザイン面です。ライオンさんは「僕はよく本屋でジャケ買いしていた」とおっしゃるのですが、そんな方の作品を書籍にする以上、やっぱり「ジャケ買い」してもらえるような本にしたい。そこでライオンさんと相談です。ですが、ほとんど秒で決まりました。
「『二人の嘘』の装丁をしてくださった鈴木成一さんにお願いしましょう」
ライオンさんも僕も同じことを考えていたのです。そして鈴木成一さんに依頼。メールを見返してみると、12月初旬に鈴木成一さんにメールをしています。流星舎として初めての装丁依頼です。なんとなく緊張しながらメールしたのですが、鈴木成一さんは即答で「承りました」と返信をくださいました。そして12月18日に打ち合わせすることに。
「原稿のやり取り」という日々を経て、ついに『六月の満月』は「書籍として仕上げていく」という段階に移行したのです。今まで何冊も本を作ってきたので何度も経験してきたことでしたが、「相談できる人が隣にいない」という状況ゆえ、「どっちにしようかな」と迷った時の判断には結構時間がかかってしまったように思います。編集者としては褒められたものではないかもしれませんが、編集者が考えるべきことを「ライオンさんどう思います?」と相談していたのは、今となっては「ライオンさん、迷惑だっただろうなあ」と反省。

最後に。『六月の満月』の印刷を請け負ってくれた三松堂さんには感謝しかありません。幻冬舎に在籍していた頃に出会った方がいて、「出版社を作ろうと思っているので、印刷のことで色々お聞きしたい」と相談したのですが、こんな時代に新しい出版社と取引するなんてリスクでしかないのに、「有馬さん、うちがやりますよ」とおっしゃってくれたのですから。『六月の満月』の制作過程でも「こうしたいんだけど、どうしたらいいですか」というような質問をたくさんしたのですが、いつだって親身になってくれました。心より御礼申し上げます。
あと、校正を担当してくれた方にも最大の感謝を。どうしたらいいかなあと思って相談したら、「やりますよ」とおっしゃってくれたあの時の感動と言ったら。本当にありがとうございます。
思い返すと、僕はいつも誰かの「即答」に助けられている気がします。