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『十二の眼』(一雫ライオン)ができるまで①〜締切との戦い
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2026年11月26日、一雫ライオンさんの最新刊『十二の眼』を刊行します。
流星舎として3冊目の単行本。そのうち2冊がライオンさん。ライオンさんとしても「1年で2冊出す」という目標を達成する記念すべき作品です。

流星舎創立記念作品として3月に刊行したライオンさんの書き下ろし長編『六月の満月』では、「一冊の小説ができるまでを記しておこう」との思いで「『六月の満月』ができるまで」という雑文を書かせていただきました。当初3~4回で終わらせるつもりだったのですが、番外編も含めて17回も書く始末。あの本のことを書こうと思うと、どうしても色々思い出してしまって長々と書き連ねてしまったのですが、ありがたいことに色々な方に読んでいただくことができました。
「編集者が何をやってるか今まであまり知らなかった」
「ライオンさんとの二人三脚の感じが面白かった」
と言われたことを覚えています。自分としては担当編集者として当たり前のことをやっていたつもりでも、他の方から見ると「へー」という発見がある。であるならば……と思いまして、『十二の眼』でも「できるまで」を書いてみようと思います。
『十二の眼』で真っ先に思い出すのは、締切との戦いです。この作品はライオンさんにとって初めての連載小説(「日刊ゲンダイ」で連載させていただきました)で、月曜から金曜まで掲載。最初の原稿は各所への確認も必要ですし、掲載紙に添えるイラストを発注するなどの事情もあり、2025年5月10日が締切でした。枚数は原稿用紙で表現するのですが、約100枚(40000字)くらい。
ライオンさんが『十二の眼』だけに取り組める状況であればよかったのですが、この時ライオンさんは『六月の満月』を書いていました。つまり、2作を同時に書かないといけない状況だったのです。

しかも『六月の満月』は当初の予定より執筆が遅れ、ライオンさんから初稿の原稿をいただいたのが4月初旬。『十二の眼』の第一回目の締切は5月10日なので、『六月の満月』を書き終わってから1ヶ月強の短期間で、ライオンさんは日刊ゲンダイに最初にお渡しする原稿を書かなくてはいけなかったのです。
正直、僕は焦っていました。ライオンさんは作品に没頭するタイプの作家です。『六月の満月』の初稿をいただいたとはいえ、彼の頭の中には『六月の満月』が居座っている状態。おそらく相当な修正が必要なこともその時点でわかっていました。それなのに、新作を書かないといけない。ちなみに、ライオンさんは緻密なプロットを書く人ではないので、この時点で『十二の眼』がどれくらい具体化しているのか、僕にはわかっていませんでした。
僕の記憶が確かなら4月上旬のことだったと思うのですが、僕はライオンさんと電話で言い合いをしています。これは今にして思えば僕の未熟さゆえなのですが、「『十二の眼』の連載原稿が締切に間に合わなかったらどうしよう」という思いと、「かと言って『六月の満月』を止めるわけにはいかない」という思いが混ざり、ライオンさんのある一言に感情的になってしまったのです。
ただ、この言い合いで僕が覚えているのはライオンさんに対して感情的になったことではありません(もちろん覚えてはいますし、反省もしているのですが)。言い合いの中心はもちろん『六月の満月』と『十二の眼』です。ライオンさんはこの電話で、『十二の眼』のアイデアが膨らんだ喜びを僕に伝えてくれようとしていたのです。今思い返すとそのことがわかるのですが、この時の僕にはそれがわかりませんでした。反省。
言い合いの中でライオンさんが語ってくれる『十二の眼』。次第に、「‥‥‥え? なんですかそれ? 面白そうじゃないですか」みたいになり、僕は『十二の眼』がどういう物語なのか、その全貌を知ることになったのです(この時点でも知らないことはたくさんあり、後に驚かされる&感動することになるのですが)。それまでにも「こういうふうにしようと思っている」という話は何度も聞いていたのですが、この時の電話でライオンさんが語る『十二の眼』は、主要登場人物の人物造形がかなり明確になっていて、しかも魅力的だったのです。
「面白そうじゃないですか!」
僕は自分が変につっかかったことを棚に上げてライオンさんにそう言っていました。聞けばライオンさんは、彼自身にも「時間がない」という焦りがあるの中で、しっかりと『十二の眼』と向き合うために、あえて何も書かずに物語に思いを馳せる時間を作ったとのこと。それによって、主要登場人物の姿形がかなり見えてきて、「書きたいという思いが強くなった」とおっしゃっていました。
ライオンさんが「書きたい」と言っている。ライオンさんにつっかかったことに対する反省はしつつも、その一言が出たことで僕も妙に安心しました。とはいえ編集者は心配するのが仕事みたいなところもあるので、「本当に大丈夫ですか?」と聞いて、ライオンさんに「だから大丈夫ですって」と言われたりしました。安心、でも心配。
日刊ゲンダイさんに原稿をお渡しするのが5月10日。その前に僕とのやり取りがあるので、僕に原稿を送ってもらうのは5月3日にしました。約1ヶ月。ライオンさんは『十二の眼』の執筆に集中、そして僕は『六月の満月』の原稿を拝読して編集方針をまとめることになったのです。
ドキドキしながら迎えた5月3日……の話は長くなるので、また次の回で書かせていただきます。