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『十二の眼』(一雫ライオン)ができるまで③〜連載決定の経緯
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流星舎創立記念作品『六月の満月』。
今年の3月に刊行したこの作品、実は日刊ゲンダイでの連載を検討していただく可能性がありました。でも、結果として『六月の満月』は書き下ろし作品として刊行し、日刊ゲンダイでは『十二の眼』を連載させていただくことになりました。
その経緯を書いてみようと思います。その時も思ったのですが、いま改めて思います。ライオンさん、イバラの道を進んだなあ、と。

2024年。師走に近い時期だったと思いますが、ある人から日刊ゲンダイの方を紹介していただきました。日刊ゲンダイには小説連載のコーナーがあって、内容次第ではライオンさんがその枠で連載できる可能性が。期間は半年。分量は1回につき大体1400字前後で、月曜日から金曜日までの平日毎日掲載。
その時期のライオンさんは既に『六月の満月』の執筆に取りかかっていて、これは後にわかることですが、絶賛苦戦中でした。苦戦中であることを僕はうっすらと感じつつ、でもはっきりとは知らない状態だったので、「『六月の満月』を連載小説としてプレゼンするのはどうか」という考えが脳裏をよぎりました。書き下ろしの約束だった『六月の満月』ですが、連載ということになれば締め切りも多少伸ばせます。でも、一抹の不安が。主に以下の3つです。
・連載未経験のライオンさんが、いきなり平日毎日連載は(身体的負担も含めて)さすがに大変すぎるのではないか
・連載にさせてもらった場合、『六月の満月』の刊行が伸びてしまう(当初の予定では2025年6月に刊行する予定でした)
・『六月の満月』は夕刊紙連載に適した物語なのかどうか
夕刊紙連載。おそらく求められるのは展開の速い物語です。毎回読んでくださる読者だけでなく、途中から読み始める方、飛び飛びで読む方も想定しないといけない。移動中に読む方も多いだろうから、ひとつの場面が長く続いたり、内面描写が続くタイプの物語は不向きなんだろうな、と感じていました。昔、「小説幻冬」という月刊文芸誌の立ち上げ編集長をやったことがあったので、「連載OK」となりやすい小説がどういうタイプのものかをつい考えてしまうところが僕にはあったかもしれません。さて、どうするか。ライオンさんに相談したところ、
「書きたい小説があるんです。そっちの方が日刊ゲンダイさん向きかもしれません」
とのこと。今にして思うと、これはすごいことです。この時期、ライオンさんは『六月の満月』に苦しんでいました。そんな時期に、違う小説で連載に挑戦しようとするなんて。聞けば、「主要登場人物の1人は女性新人刑事」「彼女の成長物語にできたらと思っている」「物語冒頭で痛ましい事件が起きて、そこから一気に展開していく物語にしたい」というようなことをおっしゃっていました。
ライオンさんに作品の構想をメモ書きしてもらいました。A4一枚にまとめられたそれには、
・民放の人気女性アナウンサーが何者かに惨殺される
・メディアに声明文が届いて劇場型犯罪と化す
・この事件をどこまで報道するかでメディアは右往左往する
・無責任なコメントに沸くSNS
・新人女性刑事が事件解決のために奮闘する
・対照的な性格のベテラン刑事2人がその女性刑事を支える
・最後は余韻を残す終わり方、できればシリーズ化したい
と言ったことが書かれていて、実に面白そう。ちなみに、この時点では登場人物の名前はまだありませんでした。タイトルは何回かライオンさんとやり取りして『十二の眼』になりました。
媒体の特性を考えると、確かにこの物語の方がマッチしそう。でも『六月の満月』も書き終わっていないのに間に合うかどうか。下手したら両方とも転びます。僕はライオンさんに自分の懸念を正直に告げました。
「『十二の眼』は面白そう。めちゃくちゃ読みたい。でも、二兎追う者は一兎も得ずじゃないけど、下手したら『六月の満月』ともども破綻する可能性がある。だから、『六月の満月』メインで日刊ゲンダイさんにプレゼンする方がいいと思う」
今でも僕の考えは間違っていないとは思うのですが、つまらないというか、まあ保守的は意見ではあります。生々しい話をすると、『六月の満月』まで転んだら流星舎としての刊行作品がない時期が長く続きすぎて、それは結構しんどいなという思いがありました。
こういう時、ライオンさんはどうするか。勝負に出るのです。誰だって「『六月の満月』でプレゼンしましょう」に納得してくれるはずのこの局面で、ライオンさんはこう言ったのです。
「『十二の眼』を主軸にプレゼンしてほしい」
……おいおい。大丈夫かよライオンさん。連載の恐怖ってハンパないらしいぞ。平日毎日掲載だぞ。締切に追い立てられる日々だぞ。しかも『六月の満月』書き終わってないんだぞ。5ヶ月後に最初の100枚(=40000字)だぞ。僕の心境はこんな感じで、「……まじかよ」と思っていたのですが、こういう時は作家に賭けるっきゃありません。自信だろうが見栄だろうが、ライオンさんが「大丈夫」って言ってるこの局面で、「いや、でも」なんて言ったら編集者じゃありません(とか言って、この後何度も「本当に大丈夫ですか?」ってライオンさんに聞きまくりましたけど)。
ライオンさんと一緒に日刊ゲンダイの担当の方と初めて会ったのは2025年2月上旬。最終決定は後日ということになりましたが、『十二の眼』を連載させていただけそうな空気で打ち合わせを終えました。連載初挑戦のライオンさんに場を与えてくださったこと、メディアの報道の在り方に一石を投じる内容であるこの作品に乗ってくださったことに対して、感謝の念が尽きません。
「やったねライオンさん!」と喜んだ僕ですが、その数週間後、ライオンさんから『六月の満月』の途中までの原稿をいただき、一読後「こりゃまずいな」と思うことになるのです(『六月の満月』ができるまで⑨)。思い出すだけで冷や汗が出る2作同時進行。しかも両方綱渡り。そんな日々がこうして始まりました。
