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森義隆監督の「先に棲む」が素晴らしいです

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「ひゃくはち」「宇宙兄弟」「聖の青春」などの映画で監督を務めた森義隆さんが、「先に棲む」というドキュメンタリーを撮っています。

石川県珠洲市高屋町。2025年2月時点での居住者が51人。8割が65歳以上。
今公開されている「season.1」では、5年前にこの町に移住した華子さんの日々を追いながら、高屋町の「今」を切り取っています。

このドキュメンタリーのことは、一雫ライオンさんから教えてもらいました。ライオンさんの『二人の嘘』を担当した時、彼と一緒に珠洲に行ったのですが、そこで出会った人たちの何とも言えない優しさを忘れることができません。

私の母は奥能登出身です。宇出津という漁師町で、私が幼い頃はイカ釣り漁船がたくさんあって、夜はとても綺麗でした。親戚には漁師もいて、腹の底から出しているような大きな声と、海の男ならではの分厚い手が、なんだか怖かったことを覚えています。都会ではあまり見ないようなおじさん達でしたが、都会ではあまり見ないような優しさに満ちていたこともよく覚えています。怖いんだけど、絶対に優しいことが幼心にわかるというか(船で沖に連れてってくれたおじさんが、僕を海に落として笑ったりしてたけど)。

「先に棲む」に出てくる高屋町の方達は、子供のころに宇出津で見たおじさんやおばさん達と印象が重なります。何よりも能登の言葉が優しい。「〜してらし」「〜わいね」「〜がいね」「〜さかい」などの語尾を聞くと、「あ、おじさんおばんさんと同じ言葉だ」と思って懐かしくなり、嬉しくなります。

自分の根っこに能登があるというのは、私を支える精神的な柱になっているのですが、そんな能登は今、地震や豪雨の影響で苦しんでいます。半島という地形ゆえ、アクセスも容易ではありません。高屋町がそうであるように、「限界集落」なんて言われてしまうところだってあるのだと思います。

でも、そこで人は生きています。海や山と共に、人が人と生きています。

森さんが今撮っている「先に棲む」は、HPによれば「1年に1本のペースで新作を公開」となっています。人の営みを撮るドキュメンタリーである以上、意図した方向に進むことはないのだろうと思います。1日の積み重ねがどこに辿り着くのかわからないドキュメンタリーであるがゆえに、わかりやすい起承転結はないのだろうとも思います。でも、能登で生きているおじさんやおばさんを知る私としては、軽々しい予測などできない「日々」の積み重ねの先に生まれるであろう変化を捉えようとするその姿勢こそが、森さんの優しさでもあり、作り手の厳しさでもあるように思えて感動を覚えるのです。