日々の仕事Blog
一雫ライオンさんの連載小説と書き下ろし小説(と、ちょっとだけ彼の闘病のこと)
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編集者という職業は面白いもので、書籍編集と雑誌編集だと、同じ職種名なのにお互いのことが実はよくわかりません。書籍編集の中でも文芸編集者もいれば、人文書を作る編集者、ビジネス書や実用書が得意な編集者がいて、これまたお互いにわかるようでいて実はよくわかりません。先日、ビジネス書を作る編集者と話す時間があったのですが、「へえ!」とか「そうなの!?」という驚きがあって、他業種の人と話してるみたいな感じがして面白かったです。
私の場合、小説誌を立ち上げた経験もあるので、どちらかと言えば文芸編集者という自己認識があったのですが、ビジネス書だって作ったことあるし、ダイエット本とか写真集とか絵本も作ったことがあるし、今は占いの本の編集もやらせてもらっているから、自分で自分がよくわかりません。でも、「この人と仕事したい」と思った人と、ああでもないこうでもないとやり取りしながら一冊の本を作るという仕事は性に合っているように思います。
流星舎という出版社を立ち上げて、一番やり取りをしている書き手の一人が小説家の一雫ライオンさん。彼もまた「この人と仕事したい」と思ったうちの一人です。日刊ゲンダイで「十二の眼」を連載してもらっているだけでも大変なのに、「六月の満月」というタイトルの書き下ろし原稿もいただいていて(ただいま絶賛編集中)、さらには今年中にもう一本短編を書いてもらう約束もしていて、ほとんど毎日、何かしらの要件で電話している気がします(去年はお互いの趣味である野球の話をする程度の余裕はありましたが、そういえば今年はあんまり野球の話をしていない、、、)。
彼と初めて会ったのはコロナ前で、初めて会った時から「なんかあるな」と感じていました。「なんかあるな」というのは個人的な感覚なのでうまく説明できないのですが、簡単に言うと「この人とは何かやることになるだろうな」という感覚です。思いっきり主観的なものなのですが、こういう感覚ってあんまり外れないような気がします。結果、彼との仕事は『二人の嘘』という小説に結実し、ありがたいことに何回か重版をかけることもできました。
ライオンさんは、小説家としてデビューしたのが44歳と遅咲きだったのですが、『二人の嘘』がベストセラーになって勢いがありました。書きたいテーマもたくさんあり、「さあ、これから」という時期だったのですが、何の因果かガンが見つかり、しばらく闘病することになったのです(BOOKSTAND.TVという番組で闘病の時のことを少し語っています)。ガンと闘いながらも、自分が書きたい小説のことを考え続けていた彼を思い出すと、小説家の凄さが身に染みます。
彼の体のことを考えたら「ちょっとゆっくりしましょう」と言うべきなのでしょうが、私がやっていることは真逆です。「もっと書きましょう」とばかりにライオンさんと仕事をしまくっています。時々、自分がやっていることは人として間違っているのではないかと思ったりもしますが、彼が小説家で私が編集者である以上、この関係は続くと思います。
自分がそういう仕事をしているという、ある種の負い目みたいなものが、原稿と向き合う際の誠実さにつながると信じて、彼の原稿を編集しています。「十二の眼」は一気読み必死の超弩級エンタメ小説、「六月の満月」は読むほどに胸が締め付けられる重厚な小説で、どちらも一雫ライオンさんの人生哲学が濃密に詰まった作品です。刊行はまだ先ですが、この作品たちを一人でも多くの方に送り届けるべく、誠実に編集しようと思っています。