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『土漠の花』(月村了衛)がaudibleになりました
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2014年9月、月村了衛さんの『土漠の花』という小説を担当しました。そして先日、10年以上の時を経て、本作がaudible(ナレーター:岩崎了さん)で配信になりました。
月村さんとはこの『土漠の花』で初めてお仕事をご一緒したのですが、いただく原稿がめちゃくちゃ面白い。「読む手が止まらぬ面白さとはこのことか!」いう感じで、手に汗握る展開だし、何より泣ける。
雑誌連載を経て、書籍化する際、当然私は燃えていました。「この本を一人でも多くの人に読んでもらいたい!」と。
結果としてこの作品は第68回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞し、10万部突破のベストセラーとなったのですが、書籍化に向けて月村さんと打ち合わせを重ねる中で、私は実は大きな間違いを犯していました。
『土漠の花』は今となっては「このタイトル以外ない!」と思えるほどインパクトの強い素敵なタイトル(月村さんが考えたタイトルです)ですが、当時私は「”土漠”と言われてもわからない人がいるのでは?」と考えてしまい、別のタイトルを月村さんに提案し、そのタイトルで進めようとしていたのです。
刊行前、書店員の方に集まっていただき、この作品を読者に届けるために何をすべきかというアイデアを多数いただいたのですが、そこで「このタイトルだと売れないのではないか」とご意見が……。聞けば聞くほど「このタイトルじゃダメだ」と思うようになり、その場で「タイトルを変えます」となったのですが、刊行も迫っているし、焦ったのなんの。
「このタイトルだと売れないのでは?」というありがたいご意見を皮切りに議論は活性化。雑誌連載時のタイトル「ソマリアの血、土漠の花」のほうが書店員の皆さんに好評で、最終的に『土漠の花』に落ち着きました。あの時のことを思い出すと今でもソワソワしますが、間違った方向に走ろうとしていた私を止めてくれた率直なご意見はとても勉強になりましたし、感謝しています。おかげで『土漠の花』は多くの読者の方に読んでいただけたのですから。
今ではすっかり「ドバク」で定着した本作、10年以上前の作品とは思えぬほど「現代社会に潜む危険性」を捉えていますし、何より小説として圧倒的に面白いので、まだ読んだことがない人はぜひ聴いてみてください。