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『六月の満月』(一雫ライオン)ができるまで⑩

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今回は、ライオンさんが『六月の満月』の初稿をどう修正したか、の話。

結論から書きますが、僕はライオンさんから修正原稿をいただいた時、「……すごいな」と感動しました。初稿をいただいて「まずいな」と思った僕は、ライオンさんと打ち合わせ。そこで「こういうふうに直すのはどうか」という提案をしたのですが、結構思い切った修正依頼だったのです。なので、最悪のパターンとして「『六月の満月』の修正を一旦諦めて、正式に決まった長編連載『十二の眼』の執筆に取り掛かっていただく」という形も考えていました(「十二の眼」の第一回締切は5月10日設定していました)。

結構高い壁だったと思いますが、ライオンさんは乗り越えたのです(しかも『十二の眼』の最初の原稿もめちゃくちゃ面白かった)。

ライオンさんが『六月の満月』を脱稿したのは2025年4月3日でした。2月下旬に途中までの原稿をいただき、ちょこちょこやり取りしながら書き上げてもらった形です。今となってはライオンさんとも笑って話せるようになりましたが、初稿の原稿では物語が全然躍動していませんでした。『二人の嘘』でも『流氷の果て』でも、見事な描写力で物語に彩りを与えていたライオンさんの筆が……硬いというか何というか。せっかく魅力的な登場人物を生み出したのに、その魅力を発揮しきれていない点も気になりました。

ライオンさんと打ち合わせしたのは2025年4月20日。僕はいただいた原稿に修正のお願いをするとき、(あれば、ですけど)「大きな3つ」を用意します。その他の細かい点をまとめた紙も持っていきますが、話をややこしくしないためにも「3つ」に絞ることにしていて、ライオンさんとの打ち合わせでもそうしました。

詳しく書くことはできないのですが、

①主要等人物のキャラ設定を変える
※ライオンさんと『六月の満月』のやり取りをする中で彼が語った登場人物は、実に魅力的でした。その魅力を発揮するにはこういう人物造形にした方がいいのでは? という提案です。

②物語全体と主人公の過去に深みを持たせるため、ある人物の描き方を修正する
※この人物に引っ張られすぎると物語の焦点がぼやけると思い、その人物の存在感を薄めるための提案しました。

③後半に出てくるある台詞を物語の中盤に持ってくる
※そうすることで物語を早く動かすことができる、そして物語が動いてからの展開を重厚にできると考えて提案しました。

上記3つに関して、セルリアンホテルのロビーカフェで3時間くらい話したでしょうか。「だったらお前が書けよ」と言われてもおかしくないくらい無理めなお願いだと自分でも思っていたのですが、ライオンさんは一つ一つに対して「だったら、こうするのはどうですか?」とどんどんアイデアを出してくれました。たとえばですが、①に関して「思い切って口調も変えちゃった方がいいですかね? その方が読んだ人にもわかりやすいですか」とか、②に関して「この際、この人物を登場させるのはやめちゃいましょう。代わりにこういう人物を出すのはどうですか」とか。

「もっと僕自身が、この小説に出てくる人間を好きにならないといけないですね」

とおっしゃったライオンさんの台詞が強く印象に残っています。前回も書きましたが、流星舎創立記念作品であることへのプレッシャー、そして『流氷の果て』から休みなく『六月の満月』に取り掛かったことによる準備面での不安。その二つがライオンさんを苦しめた結果、一雫ライオン作品の大きな魅力の一つである抒情性を出しきれていない原稿になってしまったのかもしれません。ここに関しては僕にも流星舎を始めることへの不安と焦りがあったので反省です。

これは後日「有馬さんにああ言われてハッとした」とおっしゃってもらったのですが、この時僕はライオンさんにこう言ったそうです。

「ライオンさんはエンターテインメント作家なんだから、読者を楽しませることだけ考えてください」

言った記憶はうっすらとありますが、そこまで重い意味を込めて言ったことではありませんでした。僕の中ではそれよりももっと緊張しながらライオンさんにぶつけた提案だったりの方が記憶に残っているのですが、どういう言葉がどういう角度で入っていくかってわからないもんだなあ、と思います。

修正原稿をいただいたとき、「登場人物がすごく魅力的になった」と素直に思いました。「こんなに変わる?」と驚いてしまうくらいで、人に魅力があるので続きが気になる原稿になっていたのです。

初稿から再稿にかけてぐっと魅力を増した『六月の満月』。ただ、この時点では「展開の整合性は考えなくていい」と話していたので、「ストーリー展開」にはまだ課題がありました。そしてライオンさんはこの後、その修正に本腰を入れて取り組んでいったのです。