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『六月の満月』(一雫ライオン)ができるまで⑦
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今回は、作家にとってひとつの作品がどれくらい大きな存在であるか、という話。
流星舎という出版社を立ち上げるつもりであることをライオンさんに伝えた話は前回書きましたが、その時期のライオンさんは『流氷の果て』の改稿に取り組むタイミングでした。他社作品なのででしゃばったことをするつもりはありませんでしたが、『六月の満月』のこともあるのでライオンさんとやり取りする機会も多く、会ったり電話したりするたびに、『流氷の果て』に関する話をよく聞いていました。
※書店員の皆さまへ 『六月の満月』の注文書はこちらになります。
率直に言うと、ライオンさんは苦しんでいるように見えました。しかもその苦しみは日増しに大きくなっているように見えました。「どうですか?」と聞けば、「ここをこういうふうにしようと思っている」と具体的な直しのポイントをおっしゃるのですが、なんとなく隘路にはまり込んでいるというか、袋小路に迷い込んでしまったように見えるというか。『流氷の果て』のことを考えすぎていて、ちょっと煮詰まっているように思えたのです。
こうなると、次作の話はできません。僕は本音では『六月の満月』の話がしたい。でも、ライオンさんの真ん中には『流氷の果て』がどかんと居座った状態。さてどうしようかなと思った私は、ライオンさんを食事に誘いました。
「気晴らしに飯でも食いにいきません?」

と。淡島通りにあるお店でライオンさんと会ったのですが、驚いたのが飲むスピード。僕がまだ一杯目のビールを半分も飲んでいないのに、ライオンさんは焼酎のロックを次々頼むのです。その日は作品の打ち合わせではないので、酔うのはかまいません。でも、体のこともあるし、何かライオンさんのメンタルが不安定に思えて、だいぶ心配になりました。そんな状態のライオンさんが何を話すか。ひたすら『流氷の果て』のことです。
意見を求められれば僕も話すのですが、そんな僕の話が終わらないうちにライオンさんがまた話し始める。「最後まで聞いてくださいよー」と言っても、ライオンさんは「すいません(笑)」と言いつつ話し続ける。しかも、「迷い」を感じさせる発言が多い。僕に話すというよりも、自分で自分と話している感じ。そして、次々とお酒を頼む。
こりゃ、まずいな。
基本的にライオンさんは聞き上手な人です。自分の話をすることももちろんあるけど、こんな姿を見たことはそれまでありませんでした。しかも、「どう直すか」に関して迷いがあるように見える。僕はお店を出たあと、ライオンさんに時間をもらって言いました。
「ライオンさん、自分では大丈夫と思ってるかもしれないけど、相当メンタルやばいと思います」
そして、「このままだと『流氷の果て』は終わらないと思う」「読者の心に何を残すか、をもう一度考えてから、どう直すかを考えた方がいい」というようなことを伝えました。他社作品に対してここまででしゃばったことをするのは嫌なんだけど、その日のライオンさんを見たら、言わずにはいられませんでした。
その日は、その一件で終わりにして帰宅。翌日だったかその次の日だったか、ライオンさんから「有馬さんに言われるまで自分の状態に気づけてなかった。冷静になれたし、楽になれた」と言われて、僕も安堵しました。その後も『流氷の果て』の改稿にライオンさんは苦しんでいましたが、結果として素晴らしい作品に仕上げたのですから、さすがだな、と思った次第です。
ちなみに、『流氷の果て』だけを考えているように見えたライオンさんですが、この時期に『六月の満月』のことも考えていて、構想メモを溜めていたとのこと。ありがたい&恥ずかしい話ですが、僕は全然気づいてませんでした。