日々の仕事Blog

『六月の満月』(一雫ライオン)ができるまで⑧

カテゴリー:

  • 日々の仕事

今回は、いよいよライオンさんが『六月の満月』を書き始めた時の話。

六月の満月』は、『二人の嘘』に次いで2回目となるライオンさんとの仕事。『二人の嘘』の時は、ライオンさんが用意してくれたプロットの中から、とあるタイトルで2~3行書いてあったのが気になって、「なんですかこれ?」と言ったところから作品が生まれました。「ある男が、ある女性と金沢に逃避行する」とかそんな感じの、プロットというよりメモみたいな。「これはプロットとも言えないものなんですが」と言って語り始めたライオンさんの、何とも言えない含羞を帯びた表情を見て、「これにしましょうよ」と言った記憶があるのですが、今でもなぜそれを選んだのかうまく説明はできません。完全に「なんとなく」です。ちなみに、『二人の嘘』はその後の打ち合わせでメモの内容から変わっていきましたが、それでもあのメモが全ての始まりだったのは間違いありません。

※書店員の皆さまへ 『六月の満月』の注文書はこちらになります。

『六月の満月』では、ライオンさんがA4の紙に短めのあらすじを書いてくださったと第一回目に書きました。そのプロットを踏まえて改めて打ち合わせをした場所は渋谷のセルリアンホテル。時期は2024年10月くらいです。『二人の嘘』の時も、大事な打ち合わせの時はセルリアンホテルのロビーカフェでした。これも理由は「なんとなく」です。せっかく色気のある物語を書くんだから、ちょっと背伸びしましょう、みたいな感じです。ライオンさんも僕も普段はイタリアンより焼き鳥がいいみたいな人間なのですが、作品の打ち合わせでセルリアンに行く時はしっかりジャケットも着て、「作家と編集者」っぽい感じでのぞみます。

ライオンさんのプロットに書かれていた『六月の満月』というタイトル。そして、「光の方向へいこうとする三人が、運と因果に引きずられる物語」という一文。僕は、またまた「なんとなく」ですが、このタイトルとこの一行で十分なんじゃないか、と思いました。そもそも「2~3行のメモ」から『二人の嘘』を生み出したライオンさんと僕なんだから、これだけあれば十分じゃない?と。

この「なんとなく」は僕の場合、だいたい良い方向に転びます。『六月の満月』もライオンさんらしい泣ける小説に仕上がりつつあるので、良い方向に転がっていると信じています。ただ、良い方向に向かうためには試練もつきもの。

いざ執筆に取りかかったライオンさん。タイトルに「六月」と入れている以上、6月に出しましょうとこの時点では話していて、刊行時期の目標は2025年6月にしました。ライオンさんは「3ヶ月で書きます」と豪語。僕は「それはさすがにキツくないですか?」と一応の気遣いを見せつつ、なんか自信ありな表情だったし、『二人の嘘』よりは短い物語になる想定だったので、「もろもろの準備を考えて、2025年1月末に脱稿してほしい」とお願いしました。ライオンさんは二つ返事で「わかりました」と。今振り返って思うことですが、僕は「前回うまくいったから、今回も」と考えてしまっていたのだと思います。初めての仕事の時の緊張感に比べると、どこかが緩んでいたのかもしれません。

その後、何かの折にライオンさんに電話するたびに聞くともなく執筆状況を聞くようにしていたのですが、どうも予定より遅れているっぽい。というより、『六月の満月』の話を避けようとしているようにも思える。小さくなものではあったけど、結構はっきりと嫌な予感がしました。でもライオンさんはがんばって書いてくれている。3ヶ月で書くと豪語した時の表情も覚えている。完成原稿で僕を驚かせたいという思いがあるのかもしれないな、と思って、踏み込みたいけど踏み込めない日々が続きました。信じて待つ、その一心でした。それがライオンさんへの信頼ではなく、むしろ甘えであることに僕は気づいていませんでした。

そして。

2025年が始まったばかりの1月のある日、「全体を10としたら、どのくらいまで進んでますか?」と思い切って聞いたところ、半分も進んでいないことがわかりました。締切の約束はその月の末日。「展開は頭の中にある。間に合わせる」とライオンさん。こういう時、編集者はどうするか。それこそ「みなさんどうしてるんですか?」と教えてほしいですが、ライオンさんと僕がどうしたかはまた次回。