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『六月の満月』(一雫ライオン)ができるまで⑥
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三軒茶屋に「セブン」という喫茶店があります。僕が子供の頃には既にあったはずで、いわゆる純喫茶っぽい雰囲気のところ。高校生の時、入ってみたくて店の前まで行ったけど、緊張して入れなかった記憶もあります。
その「セブン」で、ライオンさんと会ったのは2024年3月のことでした。
その日、ライオンさんは三茶で会食と言っていて、それを知っていた僕は夕方くらいに電話。「今日、会食ですよね? 何時からですか?」と。ライオンさんは会食の時、遅れてくることはまずありません。なんなら、編集者より先に店に着いていることも多い。ここらへんは「時間に正確」というのはもちろんのこと、人生経験から導き出したしたたかな行動原理でもあると僕はニラんでいるのですが、その日もやっぱりライオンさんは早め早めの行動をしていらっしゃいました。

会食が始まる前の数十分をいただきました。その場所が「セブン」だったのです。おそらくライオンさんも「なんだ?」と思ったことでしょう。でも、僕が話そうと思っていることは予想できなかっただろうと思います。
余談ですが、会う場所が三軒茶屋で、しかもスタバでもコメダでもホシノでもなくセブンであったことは、流星舎始まりのエピソードとして、ひそかに気に入っています。ライオンさんも「セブン」は思い出深い場所だったそうで、そんな場所で人生の決断を伝えることができたのですから。思春期の僕が緊張して入れなかった「セブン」。そして、脚本家時代のライオンさんが大事な打ち合わせしていた場所でもある「セブン」。
その「セブン」で、僕はライオンさんに2つのことを告げるつもりでした。一つは、「学生アルバイトの時代から23年間お世話になった幻冬舎を辞めて、流星舎という出版社を作ろうと考えていること」。そしてもう一つは、「流星舎刊行第一弾はライオンさんの作品にしたいと思っていること」。
新しい出版社の社名は「流星舎」にしたいという考えはこの時点で既にありました。僕には、自分を編集者として育ててくれたと感謝している恩人がいます。白川道という作家と、幻冬舎です。白川さんは「無頼派」なんて呼ばれてもいた小説家で、彼のデビュー作が『流星たちの宴』。白川さん絡みの「流星」と、幻冬舎の「舎」の字を取って、「流星舎」。それが許されるかどうかはともかくとして、「この社名にしたい」という自分自身の考えはライオンさんにも伝えました。
出版社をやってうまくいく保証なんてありません。むしろ厳しい見方をする方が自然です。なので、上記2つをライオンさんに告げてどういう答えが返ってくるかを考えると怖くもありましたが、「セブン」の奥の方のテーブルに通されて、いざ告白。「ライオンさん、実は……」みたいな、珍しく真面目な口調で。驚くライオンさんに、「どこかに転職するということではないんです」と。そして、「ライオンさんの作品を流星舎の刊行第一弾にしたいんです」と話したら……ライオンさんはニヤリと笑って、
「そんなの、やるに決まってるじゃないですか。むしろ光栄ですよ」
即答。あれはしびれたなあ。「あぁ、この人は絶対に裏切れないな」と思いました。「今日帰ったら奥様と相談してください」というようなことは言いましたが、とにかくすごい嬉しかった。その日はそれほど時間がなかったので、色々な人に不義理をしないようにあれやらこれやらを決めたり考えたりしないといけないね、ということだけ話して、僕は会食に向かうライオンさんを見送ったのでした。
『六月の満月』のことはあまり書けなかったけど、執筆前夜の1つのエピソードとして。