日々の仕事Blog
『六月の満月』(一雫ライオン)ができるまで④
カテゴリー:
(「『六月の満月』(一雫ライオン)ができるまで③」はこちら)
ライオンさんが予定していた抗がん剤治療は全6クール。前回書いたように、それぞれのクールにつき、最低1週間入院することになっていました。
ところが、3クール目の治療の際、ライオンさんにアレルギー反応が出てしまい、抗がん剤治療は中止になりました。その後、ライオンさんは全35回の放射線治療を受けることに。4月下旬から6月上旬まで、平日は毎日治療のため病院に行っていました。
そうやってライオンさんは病気と戦っていたのですが、少しずつ作品のことも考えるようにしていたそうです。本来であれば執筆に取りかかっていたはずの『流氷の果て』、そしてその後にご一緒しようと約束していた『六月の満月』。この時期はとにかく治療優先と思っていたので、私からは作品に関しての話をそれほどしていなかったのですが、ライオンさんの頭の中で物語は膨らんでいたのかもしれません。
ライオンさんが放射線治療を終えたあと、僕はライオンさんを野球観戦にお誘いしました。ライオンさんは大の野球好き。当時、千葉ロッテマリーンズに在籍していた佐々木郎希選手が完全試合を達成して話題になっていたので、「話題の佐々木を観に行きましょう」と。病気と戦っていらっしゃるライオンさんに対して、野球観戦のお誘いもどうかと思うのですが、少しでも気晴らしになればとの思いでした。
ライオンさんが「ぜひ行きましょう」とおっしゃってくれたので、佐々木郎希選手が投げる日を僕なりに考えてチケットを取ったのですが、なんと肝心の佐々木選手は投げず……。それでもライオンさんは野球を楽しんでくださったので良かったのですが、彼が投げないことがわかった時はさすがに焦りました。

試合が終わって「軽く飯でも食いますか」となってお店に入ったのですが、実は当時のライオンさんは治療の影響で味覚がない状態。そのこともあり私はどうしても体のことを気遣ってしまうのですが、ライオンさんはどちらかというと作家モードだったと記憶しています。いよいよ執筆に取り組み始めた『流氷の果て』のこと、そして『六月の満月』のこと。ライオンさんは作品を執筆する際、簡単なプロットをご用意してくださると第一回目で書きましたが、決してプロット至上主義ではありません。どちらかというと、「書きたい人間がいること」が大事なタイプなのではないかなと思っています。登場人物をより魅力的に見せるためであれば、最初に考えていたプロットから逸脱することをいとわないと言いますか。もちろん、大枠での物語の骨格を変えることはそうそうないのだと思いますが、「こういうのはどうですかね?」「こういう時にこういう行動を取るとこの登場人物の見え方ってどう変わりますか?」とか、次々と質問されました。
ライオンさんの体のことはもちろん心配。でも、ライオンさんと作品の話をする時間は僕にとっても貴重でしたし、何より楽しかった。私が「こういうふうにするのはどうですか?」と提案すると、ライオンさんはその案を真剣に考えてくれるのです。人生経験も豊富な方なので、人物描写が頭でっかちじゃないというか、深みがあるとも思いました、僕のアイデアが採用されることもあればされないこともあるけど、作品に深く関われている喜びを感じさせてくれる作家だなあとの思いは日増しに強まり、私は一雫ライオンという作家にどんどん惚れ込んでいったのです。
↓『六月の満月』のあらすじ
